辛抱強くJRの幹部を説得して愚劣な体制を是正させただけで、私は責務の大部分を果たしたようにも思えたが、せっかく監査役というポストにいるのだから、もうちょっと会社の役に立つことをしようと思った。

といっても、いわゆる会計帳簿を鵜の目鷹の目でチエックするようなことは、執行部の監査部と監査法人に任せて自分ではいっさい見なかった。
やったことは、各種会議に出席すること、池袋、飯田橋、東京の各ホテルや赤羽、津田沼、国分寺、溝の口、浦和、高円寺、武蔵境などのメッツ(日本ホテル傘下)を見て歩くことだった。
そこで支配人だけでなく食堂のスタッフなどに、とくだん改まってではなく、話を聞いていると、いろんな問題点が解ってきた。

細かい具体例はほとんど忘れてしまったが、たいていはお客様に接する現場で、いちばん大切な細部がないがしろにされていることだった。
たとえば、清掃が行き届かない、それを現場に即してつめていくと、業務委託によって、具体的な問題をスタッフに指摘する体制になっていない、そのせいかホテルの人たちが、日々清掃の状態をチエックして、是正しようという気持ちにもなっていないのだ。

気がついたことを毎月10項目くらい、箇条書きにして、社長に一時間くらいかけて説明し、善処することを求めた。
社長は、ほとんどの指摘に頷いて「わかりました」と答えるのだが、目に見えて改善されることは少なかったように思う。

150人規模の鉄道会館でも体質改善をはかるためには、社長はよほどの能力がないかぎり、死に物狂いにならなければならない。
まして日本ホテルグループははるかに規模が大きいのだ。
私には、社長がよほどの能力に恵まれているとも、死に物狂いになっているとも見えなかった。
また、日本ホテルが体質改善をしないで一流ホテルとして顧客の信頼を得ることは難しいとも思った。

日本ホテルを見ている過程で、本社マターだと思われることも少なからず見つけた。
それは月一度のグループ監査役会議で、本社の監査役に問題提起した。
これもほとんど、反対とか異論をぶつけられることはなかったが、実行に移されることは少なかった。